読了。

 探偵小説家のなかにはときにはたして如何なる夢魔がこのひとの枕もとでこれほど無残な悪夢をささやくのかといぶかしくなるような異端の才能が在るものだが、連城三紀彦はまさにその代表格である。

 いったいなにがかれをして次つぎと未曾有の大奇術を捻出させつづけるのか、なぜかればかりがほんらい重く揺るがしがたいはずの現実をこうも軽々と揺り動かしうるのか、凡夫の目では測りがたい。

 そうはいっても、かれが紡ぎ出す世界はたとえば乱歩が綴ったような騒擾の大魔界とは本質からしてことなる。耽美、幽玄、ほろびの美学にみちみちた連城三紀彦の作品宇宙は、けっして煌きらとひかりかがやくようなものではない。

 いまなおかれの手が妖々と生み出しつづける淫靡な殺人劇は、あまねく生命がしにたえたあと冷ややかなうすやみばかりが蜿蜒とつづくたそがれの星を想わせる。

 その薄暮の世界に可憐な炎を燈すものは、はかなく燃える恋のほむら。しかしそれはしばしば昏い悋気や憎悪と結びつき、物語を哀しみの終幕へとおとしいれる。

 第二話「野辺の露」において、或る秋耳にした鈴虫の声音に二十年を捧げた純情な男と、かれを待つあまりに酷烈な運命を見てみるがいい。連城三紀彦以外のなにものが、これほど哀切な文藝的達成と、これほど壮麗な探偵小説的奇想を両立させうることだろう。

 「花葬」と名付けられたあの血色の連作に比肩する傑作短編集。満足満足。