西の善き魔女 1 (BLADE COMICS)

西の善き魔女 1 (BLADE COMICS)

 読了。

 作家荻原規子の代表長編「西の善き魔女」待望のコミカライズ第1巻。

 作画をつとめるのは本編に表紙と挿絵を付した桃川春日子。原作読者の期待を裏切らない黄金のコンビネーションによる一冊といえる。

 古代日本を舞台にし神話の戦いを佳麗につづった異色のヒロイック・ファンタジー「空色勾玉」以来、荻原は一貫して運命的なボーイ・ミーツ・ガールの物語を、ほとんどそれのみを語ってきた。いつまでもひとつの歌をくりかえし歌いつづける金糸雀のように。

 本作もその系譜につらなる一作であり、セラフィールドと呼称される高原で貧しいながらも美しく誇りたかく育った少女フィリエルと、数学に異常な天稟を発揮したことからフィリエルの父ディー博士の養子として育てられることになった少年ルーンの、世界そのものの秘密を巡る物語が、時に鋭く時にひょうひょうと綴られている。

 少女漫画および少女小説の歴史において、心に深い傷を負って暗い翳りを身につけた少年が、幸福な家庭環境のなかであかるく朗らかに育った少女と出会うことによって癒しをしる物語は今日まで無数にえがかれてきた。

 現代でいえば津田雅美彼氏彼女の事情」や「フルーツバスケット」がそれにあたるだろう。本書におけるルーンとフィリエルの関係性もそのパターンをなぞるものだが、荻原は幾重にも定石をひねって読者をかく乱し惑乱させる。

 フィリエルはルーンを此岸にとどめる碇であり、数理学の神秘に魅せられたかれにとって唯一断ち切れない現世の存在である。物語は時に闇に落ち込もうとするルーンをフィリエルの光が救済するさまをあざやかに描きだしていく。

 もっともこの作品の本質はファンタジーの王道を徹底的にパロディにして相対化する視座にあるだろう。原作第2巻のタイトルがすべて既存の作品から採られていることは象徴的である。

 この漫画版ではまだ物語はそこまでたどり着いていないが、桃川春日子の作画は原作のイメージを崩さないものだけに、これからの展開には期待がもてる。

 ユーシスの勇敢にして滑稽な騎士ぶり、アデイルの嬋娟たる美貌のかげに隠した本性、それらをコミックの形で読めるようになるまであとすこしだ。一読者として、この物語が原作とおなじ幸福な完結にたどり着けるように祈っている。