攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 虚夢回路 (徳間デュアル文庫)

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 虚夢回路 (徳間デュアル文庫)

 脚本家グループのひとりのよるテレビアニメーション攻殻機動隊SAC」のノヴェライズである。

 文体はいくらかたどたどしさを感じさせるが、内容的にはテレビ版の設定に忠実なハイスピード・サイバー・ポリス・アクションだ。

 時は西暦2030年。舞台は第四次非核大戦を経て軍需景気に沸く電脳日本。戦争は人間の脳とコンピュータを接続する電脳技術と義体化とよばれる人体の機械化改造技術を飛躍的に進歩させ、いまでは市民の大半が電脳を通してネットにつながるまでになっていた。

 しかしその一方、従来の警察機構では対処しきれない凶悪な電脳犯罪や組織的テロが相次ぎ、それらの難事件に対処すべき首相直属の攻性組織が組織されることになった。「攻殻機動隊」こと公安9課である。

 そして9課の実質的なリーダーとしてあらゆる犯罪に敢然と立ち向かってゆくのが草薙素子を名乗る素性不明の女性だ。今回、素子の前に立ちふさがるのは「目覚ましテロリスト」と称される一連の少年テロ犯罪。

 犯罪に至る動機などなにひとつ持たないはずの14歳から16歳の少年たちが突発的にひきおこすなぞの犯罪のかげにあるものを素子は追ってゆく。しかし、素子がたどり着く結末は彼女の予想すら裏切るものだった――。

 「攻殻機動隊」は十数年前、士郎正宗えがく漫画作品としてSFとして僕たちの前に姿をあらわした。だが電子がコンピューターネットワークを通って星を駆け巡る西暦2004年の今日では事情はちがう。

 機械化された肉体、ネットへつながった精神、「ゴースト」と呼称される人間存在の実体、ネットで誕生する情報生命体といったアイディアとイメージはむしろ現代の世相を象徴的にあらわすもののように見えてくる。

 そんな時代につむがれた「攻殻機動隊SAC」の物語は、サイエンス・フィクションとして先鋭的であることより、時代の感性を忠実に再現することにより多く力をついやしているようにも思える。

 これはもはや来たるべきあしたの物語ではなく、今日の僕たちの現実をえがいた作品なのだ。それこそが「攻殻機動隊SAC」の最大の魅力といえるだろう。