読了。

 セックス&バイオレンス。狂奔の80年代、沈滞の90年代、そして昏迷の2000年代を通して変わらず男たちの侠気と狂気を描くことに執念を燃やすベストセラー作家菊地秀行が上下巻で放つ野心作「放浪獣」は、骨までとろけさせるような爛れた肉欲にみちた淫蕩なポルノグラフィであり、血も沸騰する苛烈な暴力で充ちた過激なエンターテインメントである。

 下巻巻末に付されたあとがきで菊地は自信たっぷりに書く。「久しぶりに、私らしい、血沸き肉踊る、イヤラシイ、大冒険ホラー・アクションが出来上がった。」

 そう、ここにあるものはまさに菊地秀行の名を冠せられるにふさわしい、ほかのなんぴとの名前もふさわしからざる性と暴力の神話世界だ。

 舞台は地球が破滅の様相を呈しはじめた近未来、資源は枯渇し、治安は腐り果て、警官をはるかに上回る重武装で身をおおったヤクザたちが我がもの顔で闊歩する異形の日本。

 いまや麻薬自動販売機が街角にならび、ゾンビーのごとき廃人を大量生産するに至ったこの「魔国」のおいて、ある日、三町笙子はひとり娘を抱えて逃亡生活に入る。

 彼女に襲いかかるのは軍隊並みの兵器を装備したヤクザの軍団、そして超古代のピラミッド遺跡からよみがえった謎の巨人。そのひとりひとり──否、その一匹一匹がみな渇望の溶鉱炉を抱えてのたうつ狂獣と化して、笙子の豊満な肉体を狙い襲いかかってくる。

 そんな絶体絶命の危機のなかで彼女が頼りとするものは最先端の科学武装を全身にまとった人間兵器「ブルー=ジョー」と、魔術にも似た妖しい技を操る美貌の若者「GRAY LANCER」のふたりのみ。

 しかしこのふたりのヒーローは同じ人間のものとも思われぬ超絶の妖技を揮いつつ彼女を守りつづける。

 思え。菊地はいままでにもいくつもの暗黒世界を生み落としてきた。あるいは悪の化身のごとき魑魅魍魎たちがあたりまえのように跋扈する〈魔界都市〉、あるいはあらゆる意味でひとを超えた力をもつ吸血鬼〈貴族〉がそのたそがれのなかでなお人類支配を続ける一万年後の荒野。

 しかしこの荒廃の近未来日本はそのいずれにも劣らぬ血なまぐさい暗闇でみちている。

 これは人倫をあざ笑い悪徳を賛美する肉欲の祭典、弱者の人権は強者の欲望にむさぼり食われるさだめにある。しかしそれでもなお、否、そうであるからこそ、ここで語られるテーマは獣の欲望を遠くしのいでかがやく「人間性」にほかならない。

 そう、菊地秀行は一貫して人間を描く作家である。かれは人間の野蛮な獣性きわまる描きぬくことにより、そのなかでかすかに光るたぐいまれな宝石のごとき気高さを照射する。

 それゆえにこそ、どれほど酸鼻な描写に徹しても、菊地作品のあと味は決して苦いだけのものとはならないのだ。