夜の歌 (少年サンデーコミックス)

夜の歌 (少年サンデーコミックス)

 読了。

 藤田和日郎の第一短編集。第二短編集の「暁の歌」と合わせてファンなら「買い」の出来です。

 藤田さんは「うしおととら」のような大長編を描いても見事な構成力を見せつけるひとですが、その奔放な想像力は短編でこそ最大限に発揮されるようです。

 かれはこの本に収録されているいくつかの短編で江戸川乱歩的な猥雑な闇を背景に、エロスとタナトスに充ちた冒険活劇を描き出しています。

 僕は基本的にはそういった超時代的にストレートなエンターテインメントが好きなひとなので、この2冊の短編集は非常に好もしいのです。

 ちょっと心配なのは「夜の歌」から「暁の歌」にかけて作品に漂う夜の気配が薄れているように感じられること。

 たしかに少年漫画とは光が闇を駆逐する物語であるべきでしょうし、大人の退屈な厭世観に「否」を突きつけるものでなくてはならないでしょう。

 しかし勧善懲悪のカタルシスはそれが予定調和化した途端に魅力を喪います。魔法の包丁で美女を切り刻んで食べてしまう暴君とかれに食べられるときのために全身を毒に浸す毒娘という壮絶なイマジネーションにもかかわらず「美食王」がいまひとつ面白くないのは、悪役の暴君がいかにも小者じみているからだと思うのです。

 もっと貪婪な悪が見たい。闇深ければこそ、光もまた輝きを増すというものでしょう。