ノンセクシュアル (ハルキ・ホラー文庫)

ノンセクシュアル (ハルキ・ホラー文庫)

 読了。

 森奈津子の小説を読むのは初めてだが、これはイマイチかな。あらすじとあとがきを読んだだけで展開と内容がだいたい予想できてしまう。

 小説家詠子には秀美と徹という恋人がいたが、徹にプロポーズされたことが元で、二人とも失ってしまう。失意の日々を送っていた詠子だが、ある日自宅の前に徹が現れ口論となる。

 徹に暴力を振るわれそうになった時、通りすがりの女性、絵里花が救った。彼女は美しく気品のあるお嬢様だった。だが、それは彼女の本性を覆い隠すものでしかなかった……傑作ルナティックホラー、待望の文庫化!!

 ようするによくあるストーカーの話だ。この手のお話は、一見すると正常に見えた相手がいかにしてその変質的な素顔を見せるようになっていくかというところにポイントがある。

 はじめは好もしく見えていた人物の仮面がすこしずつすこしずつ剥がれていき、それと同時に彼/彼女への疑惑が深まっていき、そして崩れた仮面の下から異常な素顔が見えてくる、その恐怖、その不気味さ。

 しかしこの小説ではわざわざ二元中継で絵里里の内心を解説してくれるので、不気味さも何もあったものではない。僕ははじめこの部分になにかのトリックが仕掛けてあるのかと思ったくらいだ。ここは省いたほうが良かったと思う。

 相手の実像を知ろうともせず自分のイメージを押しつける身勝手な愛情を描こうとしたことはわかるし、その人物が同性でしかも性的な関係に強い拒否感を示す「ノンセクシュアル」であることは多少はあたらしいのだが、ホラーとして読むにはあまりにもサスペンスに欠けている。

 むしろ男性にも女性にもすぐに惚れこんでしまうバイセクシュアルで、自由でのん気でこだわりのない性格の主人公のほうがおもしろい。しかしそのキャラクターを楽しもうとすると今度はホラー部分が邪魔になってくる。

 作者の技能云々より、そもそもホラーを書こうとしたこと自体がまちがいなのではないかと思えてならない。スティーヴン・キングなら絶妙の描写を見せたであろう粘着質の執念が、のん気な主人公ほどうまく描けていないのである。

 これはようするに作者がこのキャラクターに深い共感を持っていないせいではないかと思う。しかしこの話の展開は、たしかどこかで読んだことがあるような……そうだ、「マリア様がみてる」の祐巳ちゃんと可南子の関係に似ている!

 なんと、この小説はホラー版「涼風さつさつ」だったのだ。そう聞いて読みたくなったひとはどうぞ。僕は止めません。