しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 (新潮文庫)

しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 (新潮文庫)

 読了。

 なんといったらいいのだろう──奇想の書である。

 この本の冒頭には、「読者の幸せのために」と題してこう書いてある。「未読の人に「しあわせの書」の秘密を明かさないでください」。

 だから僕はうかうかとこの小説のトリックを話してしまうわけにはいかない。この本はなんの予備知識もない状態で読んだときに最も驚けるし、楽しめるはずだからだ。

 しかしこれだけは断言できる。これはまちがいなく世界に一作しか存在しないジャンルの本であり、常識はずれの労力と緻密な頭脳があってはじめて成立するとんでもないトリックである、と。

 物語はいんちき霊能力者バスター兼いんちき霊能力者の迷探偵ヨギ・ガンジーが、そのいんちき霊能力を見込まれて、「しあわせの書」という経典を持つ信者百万の巨大宗教団体「椎霊講会」に協力する過程を描いている。

 このシリーズの常として、「椎霊講会」の霊能力者たちも巧みなトリックを用いたいんちき霊能力者であり、ヨギ・ガンジーはそれを見破っていくことになる。

 だが、明晰な推理と果敢な糾弾を期待して読むと当てが外れることはまちがいない。たとえば山本弘の「神は沈黙せず」などはトンデモ科学や超常現象信者に対して徹底的な糾弾で望んでいた。

 山本は超常現象に関する膨大な資料を用意し、論理的な思考と科学的な情報の両面から疑似科学の欺瞞を粉砕した。その容赦のなさからは作者の生真面目な性格が読み取れるような気がする。

 それに対して、われらがヨギ・ガンジー先生は実にいいかげんである。そもそもこの先生、名前から風体からなにもかも怪しげで、しかも簡単に買収される。

 たしかに優れた手品師ではあるのだが、たとえいんちき超能力を見抜いてもあまり熱心にそれを攻撃する意思はないらしい。わが身に危険が迫ったり、なんとなく興が乗ったりしたときだけズバリと謎を解いてくれるのである。

 そして今回の謎なのだが──謎のありかを指摘することそのものがネタバレになってしまうという特殊なトリックなので、この文でもこれに直接触れるわけにはいかない。

 だから間接的に説明しておく。「月刊少年マガジン」に「ロケットマン」という漫画が連載されている。その「ロケットマン」の今月分にこんなエピソードが載っていた。

 あるマジシャンが友人の家で手品を披露した。友人が引いてみせたトランプと同じカードをかれの家のどこからか取り出してみせるのだ。友人は驚いたが、種は簡単だった。そのマジシャンは長い年月をかけてかれの家に一枚一枚トランプを隠していたのだ……。

 世界的にもめずらしいミステリ作家兼手品師である泡坂妻夫が編み出したトリックは、このマジックと同じくらいこの簡単なアイディアで、しかも同じくらい手間がかかっている。

 いまならまだAmazonで手に入るので、上の表紙から入って続編の「生者と死者」ともども購入することをお薦めする。いやまあ、とにかく労作であった。ご苦労様。