見えない都市 (河出文庫)

見えない都市 (河出文庫)

 読了。

 イタロ・カルヴィーノの名前はもちろん知っていたのだけれど、「イタリアのむずかしい文学作家」というイメージが先立ってこれまで手に取ることがなかった。

 しかし、それは間違いだった。すくなくともこの「見えない都市」はボルヘスの傑作にも比肩する最高の幻想文学である。

 物語は史上最大の帝国を治める偉大なる皇帝フビライ汗と、かれのもとにどこにあるとも知れぬ都市の話を持ってやってくるヴェネチアマルコ・ポーロの対話からはじまる。

 しかしその都市の光景たるや、「東方幻想見聞録」とでもいうべきか、現代を生きる僕たちにすら信じがたいものばかりなのだ。

 そもそも小説の構成自体がフビライとマルコの会話と都市の解説が完全に分割された形になっており、はたしてほんとうにこの幻想都市の物語がマルコの話したことなのかどうかもわからない。

 そしてまた登場する都市の数々ははゼノビアやエウフェミアなどの音楽的な(どこか女性の姓名に似た)名前を持ち、そのふしぎな響きで読者をモンゴル帝国の版図のいずこにかにあるというそれらのありえざる光景へと誘う。

 はじめのうちはそれでも七十の丸屋根が輝くおとぎばなしそのままの都市などといった比較的ありそうな風景が語られていくのだが、次第にマルコの説明は、街じゅうの人間がなんらかの役割をあたえられて演技をしている都市だの、死者たちと出会うことができる都市だのといった空想的な要素が強い都市の光景へと変わっていく。

 もっとも、ひとつの都市についての説明は長いものでも4ページ程度。この作品のなかではそういったショートショート的な長さの物語がひたすら繰り返されることになる。

 また、目次を見るとよくわかるのだが、全編が同じイメージと主題が次第に先鋭化しながら幾度となく繰り返されていくように構成されており、読者は読みすすめるうちに自然と現実から離れていくことになる。

 解説ではこれを音楽の世界のフーガにたとえているが、なるほどそういうものかもしれないと思う。とにかく僕はこの一冊だけでカルヴィーノのファンになってしまった。ほかの本も探し出して読んでみよう。