カラフル

カラフル

 読了。

 良い作品である。堪能した。だいたいおもしろい小説は、冒頭からしてうまい。

 死んだはずのぼくの魂が、ゆるゆるとどこか暗いところへ流されていると、いきなり見ずしらずの天使が行く手をさえぎって、
「おめでとうございます、抽選にあたりました!」」
 と、まさに天使の笑顔をつくった。

 ほんものの天使なんだから見ずしらずなのも天使の笑顔なのも当たり前だが、なかなかこう自然な書き出しができるものではない。

 ふつうだったら状況描写だの風景描写をしてしまいそうなところなのに、それらをばっさり切り捨てて、これ以上ないほどシンプルな表現で物語をはじめている。

 なにを書くべきでなにを書くべきでないのか、正確に知っている作家だけがこういう明快な文章を綴ることができる。

 ここを読んだだけでもわかるかもしれないが、この「カラフル」は一度は死んだはずなのになんの因果か神様の「抽選」に当たってもう一回人生をやり直すはめになった人間の物語である。

 前世で重い罪を犯したこの主人公は、本来輪廻の渦からはずされるはずだったのだが、抽選に当たったおかげでいままでの記憶を消されてある少年のからだに入り込みもう一度人生をやりなおすことになる(ここらへん、仏教的な世界観が混じっている)。

 ところがその少年の家庭は上司の失脚を喜ぶ父親、父に隠れて不倫していた母親、自分をからかってばかりの意地悪な兄、と気が重くなる組み合わせだった。

 それでもどうせ他人の人生なのだからと主人公は適当に生きていくうちに、「宿主」のまわりの人々と衝突や和解を繰り返しながら、取り返しのつかない死の重さに思いを馳せるようになっていく。

 主人公がまわりの人間たちについて誤解していることはすぐにわかるのだが、それでも一度は死を選んだかれが生きていることを肯定的に捉えるようになる過程にはやはり感動する。

 なかなか多彩な登場人物のなかでもなかでも主人公の「宿主」の初恋の少女ひろかの造形がいい。彼女は中年男性と援助交際している。

 「きれいな服も、バッグも指輪も、ひろかは今ほしいの。おとなになってからほしいなんて思ったことないの。どうせひろかの体なんておばさんになったらもう価値なくなっちゃうんだし、価値なくなってからきれいなもの買ってもしょうがないもん。エプロンやババシャツの似あう年齢になったら、ひろかはおとなしく、エプロンやババシャツを着るよ」というのが彼女の主張。

 そんなひろかにあなたならなんと答えるだろうか? ある意味、反感を買いやすいキャラクターなのだが、厭味なく描ききれていると思う。

 この作家は十代の少年少女を書かせるとほんとうにうまい。森絵都が児童文学の世界を選んだのは、適切な選択だったと思う。

 このひろかや、もうひとりの少女、「宿主」の家族たちとのかかわりを通して、感動的なドラマが進んでいくのだが、いかにも現代の作家らしく、この作者にはどこかに「照れ」があって、その「感動」をユーモアのオブラートでくるんでしまうようなところがある。

 乙一の「失踪HOLIDAY」に近い感じ、といえばこの作品の印象をわかってもらえるかもしれない。ここにはまぎれもない「現代」の鼓動がある。