ずいぶん前の作品だが、珍品なのでここに紹介しておこう。

 新谷かおるが少年サンデーに連載した漫画だが、前半と後半でまったく内容が変わっている。

 前半は「J」と呼ばれる正体不明の傭兵を主人公にした「ミッション・インポッシブル」風のアクションスリラー。

 かれのもとに指令を書いた手紙がとどいたとき、Jがなすべきことはふたつ。ひとつはその手紙をすぐに焼却すること、もうひとつは冷蔵庫のなかの食料をすべて飼い犬に投げ与えてしまうこと──という渋いエピソードで始まることからもわかる通り、全編シリアスかつハードボイルドな、渇いた男たちの物語である。

 その設定はリアルなうえに詳細で、物語の展開はドラマティック、さすがは「エリア88」の作家だ、と思いながら僕は読みすすめた。

 ところが、ところがですね。このクールでアダルトな物語が、途中からなぜかすちゃらか忍者コメディになってしまうのですね、これが。

 謎の傭兵「J」の正体は、実は忍者の末裔だったのである! ……そんなバカな。

 作品全体のトーンもシリアスからギャグへ一転し、忍法で妙齢の美女に変身するお婆ちゃんだの、女しか産まないくノ一の一族だのといったいままでの作品世界を一気にぶち壊しにするような新設定が次々と出てきて、主人公は変わる、脇役も変わる、人物の頭身は縮む、Jは行方不明、とほとんど完全にべつの漫画になってしまう。

 「ギャラリーフェイク」が途中から「さすがの猿飛」に変わってしまうようなものである。

 それでもそこそこおもしろく読めるのだから新谷かおるはやっぱり偉いとは思うのだが、それにしても尋常な変化ではない。

 おそらくまず確実に編集サイドからのてこ入れがあったのだろう。そうとでも考えるしかない変わりようなのである。

 ネットで調べたところによると、この作品は最初「ジャップ」というタイトルだったのだが、途中からいまの「バランサー」に変更されたらしい。

 おそらくこの内容の突然の変容も、この題名変更に絡んだトラブルがかかわっているのだろう。そしてそれがあるいは名作になれたかもしれない作品をみごとにつぶしてしまった。

 この作品(の前半)は暗殺というひとつのイベントを暗殺者の側から描いており、その意味ではカウンター・テロリズムのプロを描いた「砂の薔薇」の正反対ともいえる内容である。

 最初の方向で連載が進んでいれば新谷かおるの漫画作品のなかでも興味深いサンプルになりえただろうに、惜しいことだ。よくあることといってしまえば、それまでではあるが。

 「漫画と差別」の問題については、以下の文章を参考のこと。

http://www.kyoto-su.ac.jp/~nadamoto/work/199301B.htm