透明人間の納屋 (ミステリーランド)

透明人間の納屋 (ミステリーランド)

 読了。

 講談社の少年少女およびかつて少年少女だった大人向けのジュヴナイルミステリシリーズ、「ミステリーランド」第一回配本のうちの一冊である。

 なかなかおもしろい。おもしろいのだが、まったく子ども向けではない。それどころか大概の悲劇には慣れてしまった大人にとってすらも、胸が重くなるような沈鬱な雰囲気の一冊である。

 主人公は9歳の少年ヨウちゃん。孤独なかれが心の支えにしているとなりの工場の住人、真鍋さんは、ある日、かれに不思議な話をした。透明人間はこの世に存在するのだ、と。

 そして同じころ、同じ町で、密室からひとりの女性の姿が消失し、遠く離れたところで殺害されて発見されるというなぞめいた事件が起きる。

 ヨウちゃんは犯人は透明人間なのだと確信するが、ずっと時が経ち大人になったころにはその解答は納得できないものになっていた。はたして密室誘拐事件の犯人はほんとうに透明人間だったのだろうか――?

 というお話なのだが、密室トリックそのものは「文豪」島田荘司にしてはそれほど特異なものではない。むしろ本作の魅力は少年の視点からみた世界の描写のほうにある。

 どこかの古本屋は「この世には不思議なことなど何もない」などというが、9歳の子どもにとって、この世は不思議に満ちている。

 しかもかれのとなりの家に棲む真鍋さんがまたそれを増幅させるようなことばかりいうのである。

 そしてやがてヨウちゃんの前に不条理な謎が展開されるに至って、合理と非合理がまじりあい、眩暈がするような物語が圧倒的な筆力に載せて語られていく。

 ただ「ハリウッド・サーティフィケイト」や「ロシア幽霊軍艦事件」でもそうだったが、最近の島田荘司の作品には生身のセックスの匂いがたちこめていて、その濃密さにいささか辟易させられないでもない。

 大人の僕が読んでもそう思うのだから、子どもたちが読んだらなおさらなのではないか。

 またヨウちゃんの前で大人たちが口喧嘩する場面の描写などは、自分自身の少年時代の痛みを思い出させられそうになるほど激しい。

 大人というものは、子どもの前でののしりあうことがどれほど子どもの心を傷つけるものか、どうしていつまでも理解できないのだろうか。

 いずれにしても、子どもに読ませるにはあまりに重く、厳しい内容で、仮に自分に子どもがいたとしても、ちょっと薦めるのはためらわれたことだろう。

 もちろん、それもまた島田荘司の狙いのうちなのではあるだろうが。

 ところで、作中で名前が出てくる推理作家の松下謙三というのは、名探偵神津恭介の助手であるところの推理作家、松下研三から採ったものだろうが、

 これはひょっとしてこの作品のトリックが神津ものの短編「わが一高時代の犯罪」と類似していることにひっかけた読者へのウィンクだろうか……?