- 作者: 栗本薫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/09
- メディア: 単行本
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読了。
名探偵伊集院大介シリーズの最新作。まあ可もなく不可もなく。僕はこのシリーズをすべて読んでいるのですが、過去の作品の評価は、
「絃の聖域(上・下)」★★★★
「優しい密室」★★☆
「鬼面の研究」★★★
「猫目石(上・下)」★★★☆
「天狼星」★★★★
「天狼星2」★★★★
「天狼星3 −蝶の墓−」★★★
「仮面舞踏会 −伊集院大介の帰還−」★★★★
「魔女のソナタ」★★★
「怒りをこめてふりかえれ」★★★☆
「新・天狼星 ヴァンパイア 恐怖の章」★★★
「新・天狼星 ヴァンパイア 異形の章」★★★
「真・天狼星 ゾディアック(1)〜(6)」★★★
「タナトス・ゲーム −伊集院大介の世紀末−」★★
「青の時代 −伊集院大介の薔薇−」★★☆
「早春の少年 −伊集院大介の誕生−」★★★
「水曜日のジゴロ −伊集院大介の探求」★★
「伊集院大介の冒険」(短編集)★★★☆
「伊集院大介の私生活」(短編集)★★★☆
「伊集院大介の新冒険」(短編集)★★★
というところでしょうか。全部で28冊も出ているんですが、このうち「絃の聖域」、「天狼星」、「天狼星3」、「仮面舞踏会」は文句なしで傑作といえると思います。
「猫目石」、「怒りをこめてふりかえれ」は個人的に好きな作品。ほかはまあ伊集院大介ファン向けというところでしょう。
ただ「優しい密室」は若竹七海の学園ミステリ「スクランブル」に現実とは出版時期を変えてまで登場させられていますし、「鬼面の研究」はかの綾辻行人氏がフェイバリットのひとつに数えているそうです。案外いろいろなところに影響をあたえているシリーズなのかもしれません。
また、このシリーズは「天狼星」以前と以降とで別物といえるでしょう。
「以前」においては、まがりなりにも本格ミステリとしての体裁を整えていたこのシリーズは、「天狼星」三部作において徹底的に残虐に、大時代に、ロマンティックに彩られた乱歩的な迷宮世界へと迷い込みます。
本格ミステリ的には「絃の聖域」が最高でしょうが、栗本薫的にはこれが最高潮だと思います(「絃の聖域」も大好きな小説なんだけどね。あのエピローグ!)。
まさに一から十まで栗本薫の世界。好きなひとは溺れるほど好きだが、嫌いなひとはまったく受け付けないであろう、妖しく不自然で人工的でいかがわしく倒錯的にねじまがった世界です。
僕は大好き。実はいままで読んだすべての小説でいちばん「続きを読みたい!」と思ったのは「天狼星2」だったりするのですね。ミステリというより恋愛小説ですが、「猫目石」も非常に完成度の高い小説です。
だが──
伊集院大介はまちがっていた。
ぼくは思う。
それでは、伊集院大介ですらまちがうことはあるのだ。それは彼もまた、人の子にほかならぬというあかしなのか、それとも、それは──運命というものが、自らの力をふるってみせようと望んだというのか?
にはじまる衝撃的なエピローグはそれまでの物語のすべてを打ち砕きます。この作品がある意味でいちばん「栗本薫色」が薄く、ノーマルにおもしろいといえるんじゃないでしょうか。
その直接の続編になるのが「怒りをこめてふりかえれ」。「続・猫目石」ともいえそうな作品で、「猫目石」を読んだらきっとこれも読みたくなるでしょう。
僕はこの伊集院大介という名探偵の性格が大好きです。古今東西の名探偵のなかで最も思い入れがあるキャラクターかもしれません。
自分が殺人事件にまきこまれたらエラリー・クイーンよりも御手洗潔よりも先にかれに依頼することでしょう。その優しさ、おだやかさ、人間性に対する理解と共感。
栗本さんは、息子さんにかれのようになれとの思いをこめて「大介」と名付けたそうです。