解体諸因 (講談社文庫)

解体諸因 (講談社文庫)

 読了。

 西澤保彦のデビュー作にして、名探偵匠千暁シリーズの第1作目。

 シリーズの常連であるところのタック(匠千暁)、タカチ(高瀬千帆)、ボアン先輩(辺見裕輔)らはこの作品で既に登場している。出てこないのはウサコだけ。

 もっともこの時点ではかれらのキャラクター性はごく薄い。たぶんその特異な性格は「彼女の死んだ夜」以降後付けでつくられていったものなのだろう。

 第1話の時点で既にタックが酒を飲みながら推理しているのには苦笑させられるが。タイトルからわかるとおり、徹底的に死体玩弄にこだわった連作短編集である。

 島田荘司の「占星術殺人事件」を例に出すまでもなく、死体玩弄は本格ミステリの重要なモティーフのひとつだ。神聖であるべき死への畏怖を超越したその陵辱行為は、本格誕生以来百数十年を経た今日もショッキングさを失ってはいない。

 だが、それにしてもバラバラ殺人ばかりを九つも集めて短編集を編んでしまう西澤はやはり尋常ではないだろう(なかには熊のぬいぐるみ殺人事件なんてのも混ざっているけれど)。

 しかも完全にバラバラに見えた個々の事件は終章に至ってひとつの像を結び、それまでに披露された推理のいくつかもここで覆されることになる。こう書くといかにも無駄がない美しい論理で統べられた作品が想像されることだろうが、この小説のロジックは実はそれほど美しくない。

 そもそも本格ミステリにおける論理とは論理学における論理とは似て非なるものであり、あくまで現実世界の事象を扱うために組み立てられるそれは、どれほど緻密に設計されてもなお、どこかで蓋然性(プロパビリティ)に頼ることを免れない。

 だからこそマッチ棒でつくられたピラミッドのようなそのあやうい異形の美しさはひとの心を打つのだ。

 ミステリ史的にいえばそれを完成させたのが偉大なるエラリー・クイーンであり、いまそれを後継して新作を発表しているのが有栖川有栖法月綸太郎であるといえる。

 だが、本作を含む西澤作品に出てくるロジックは、本質的にクイーンのそれとは性質を異にするものなのだ。クイーンの論理を「解明」のロジックとすれば、西澤作品のそれは「解釈」のロジックということになるだろうか。

 不可思議な事象に対して、とにかく説明をつけることを目的に生み出されるロジック。だからほんとうにそれが正解なのかどうかははっきりしないし、あとから簡単にひっくり返されたりする。

 実際、この作品における謎の「解釈」は荒唐無稽すれすれのものが少なくない。しかし、それでもべつに問題はないのである。その「解釈」が充分におもしろくさえあれば。

 読者はギャグとして楽しめば良いのだ。名作の誉れ高い泡坂妻夫のデビュー作「DL2号事件」の論理なんてはっきりいってめちゃくちゃなのだが、作者がユーモアのオブラートに包んで提示しているから怒るひとはだれもいないのである。

 問題は、あとがきで書いている通り、作者の西澤保彦自身がこの作品がギャグであることを自覚していなかったところにあると思う。

 そういう意味で本作はやはり習作であり、のちの「アチャラカ・パズラー」の鬼才の辣腕を遠く幻視させてはいるものの、いまだそのスタイルが完成しているとはいえない。

 ま、匠千暁シリーズのファンだけ読めばいいってことで。