ホッグ連続殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ホッグ連続殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 読了。

 実は何ヶ月も前に読みはじめて100ページほど読み進んだところで放り投げていたのだが、ようやく読み終えることができた。

 さまざまな意味で現代ミステリの収穫と目されるデアンドリアの代表作である。おそらくクイーンやカーが活躍した「本格ミステリ黄金時代」以降の欧米の本格ものとしては、最も評価の高い作品のひとつだろう。

 既にクイーン流の謎解き小説が実践者を失っている欧米では、一時「ついにクイーンの後継者があらわれた!」と評判になったようだ。

 この作品における殺人の組曲はあるひとりの少女の死から奏でられはじめる。

 落下してきた看板に押し潰されて死んだ彼女は当初事故死と見られていたが、その後HOGと名乗る謎の犯人の手紙によってそれが殺人であることが告げられる。

 そしてそのあとも自然死としか思われない状況で次々と人々が死んでいき、第一発見者の男のもとにHOGからの手紙がとどく。

 この難解な謎に挑むのは犯罪界で殺人捜査の第一人者と見做されているイタリア人の哲学者ニッコロウ・ベイネデイッティ教授。

 パタリロ並の守銭奴にして、シャーロック・ホームズ並の天才的頭脳を持つ教授だが、HOGが次々と繰り出す姦策の前に、いったんは解決をあきらめかけるところまで追いつめられてしまう。

 しかしすべての謎は、「燃料が満タンになったガスストーブの前でそれをつけずに凍死した男」という強烈な謎を契機にして一気に解けていく!

 もっとも、トリックそのものはごくシンプルなものなので、読者によっては読んでいるうちに解けてしまうだろう。

 しかし(実はミステリはすべてそうなのだが)本作の見所はトリックそのものではなくそのトリックの扱いかたにある。デアンドリアは細心の注意を払ってこの殺人組曲を演奏してのける。

 そもそも本作はアガサ・クリスティの「ABC殺人事件」やエラリー・クイーンの「九尾の猫」に代表されるミッシング・リンク・テーマ(無差別に殺されていくように見える殺人被害者の共通点を見つけ出すことをめざす本格ミステリサブジャンルのひとつ)の作品であり、その意味では特に目新しいことをやっているわけではない。

 実際、随所に「九尾の猫」を思わせるシーンがある。だが、本作のアイディアは過去の名作をさらにひねってあり、ミステリを読んでいればいるほど興がることができるだろう。

 ミステリ史的に見れば、きわめて魅力的なアイディアでありながらも所々に難点を持ち、未完成のまま残されていたミッシング・リング・テーマという巨匠たちの遺産が、ついにここにおいて完成を見たといえるかもしれない(だが、先日紹介した西澤保彦の「聯愁殺」は現代の作品なので、これをさらにひねってある。本格ミステリとはこのようにして技術革新が進んでいくジャンルなのである)。

 末尾一行で衝撃の真実が明かされる。次々と無残な方法で被害者たちを殺していくHOGとははたして何者なのか?

 「ホッグ連続殺人」。読み終わったあとタイトルの意味をよく考えてみると、さらに戦慄が深まることだろう。したがって、この書評の記述も決してアンフェアではないのだよ。