弁護側の証人 (ミステリ名作館)

弁護側の証人 (ミステリ名作館)

 読了。

 僕が生まれるより前の本である。物語はひとりのストリッパーの女が大富豪の男と結婚するところから始まる。めざめたくない夢のようなシンデレラ・ストーリー。

 上流階級の人間である夫の家族たちは決して彼女は受け入れてくれようとはしなかったが、それすらも彼女の幸福にとって小さな棘にすぎなかった。

 父も母も遠い日に喪った彼女にとって、いまや家族といえるのはこのひとたちしかいなかったのだ。だが、彼女のささやかな、哀しいほどにささやかな幸福を、ひとつの殺人事件がかんたんに打ち砕く。

 親戚やお抱え弁護士、医者が揃ったある夜、夫の父が撲殺されてしまったのだ。夫が殺したのかもしれない。

 そう考えた妻は愛する夫を救うべくアリバイ工作をするが、それは無益どころか有害なものとなり、夫婦は鉄格子の表と裏に引き裂かれることになってしまう。

 しかし彼女は最後まであきらめようとしない。殺人を犯したとしか思われない夫を彼女はそれでも愛し、鉄格子の向こうから支えるのだ。

「信じていてね、罪もない人を死刑にすることはだれにもできないのよ」

 彼女は弁護士を雇い、事件を担当した刑事とふたたび会って、冤罪を晴らすべく動き出す。しかし――。結末で大逆転が待ち受ける法廷ミステリの傑作だ。

 だが、実は僕はめずらしく冒頭でトリックを読めてしまった。おかげでじっくり作者のテクニックに目を光らせて読むことができた。よくもまあこんな手の込んだことを……。

 しかし、文章といい構成といいトリックといいシンプルをきわめ、あくまで読みやすく、こってりたっぷりが信条のような現代ミステリを読みなれた身には非常に新鮮な気さえする作品だった。

 贅沢で、洒脱で、あざやかな哀しみに閉ざされた大人による大人のためのミステリ。小泉喜美子という作家のほかの本も読んでみたくなった。