読了。

 「孕む」。このタイトルを見ただけである種の読者は逃げ出してしまいそうだが、逃げないで読んでみるとおもしろい短編集である。

 久美沙織の短編集というと早川書房から出ていた「あけめやみとじめやみ」がすぐに思い浮かぶところだが、あちらはSF、こちらはホラー。

 テーマはずばり「女」。初出はそれぞれ別なのにもかかわらず、収録されているほとんどの作品で「女性的なるもの」が主題となっている。

 必然的にそれはフェミニズム的な主張とつながっていくようにも見えるのだが、久美沙織は小説のなかに理論武装的な要素を持ち込むことをせず、むしろ女性の肉体的生理的感覚を基盤にして物語を綴っていく。

 ここらへんが、厭なひとは厭なところだろうなあ。しかし、それはあきらかに狙って引き出している厭さなのである。

 僕は男だからよくわからないけれど、女性には身につまされる感覚なのかもしれない。「お…男にも生理があればいいんだっ!!」(by川原泉笑う大天使」)みたいな感情なんでしょうか。うーむ。

 久美沙織はそもそもかつては一風変わった少女小説の書き手だった。

 その時代にも最近復刊された「丘の家のミッキー」をはじめとして優れた著作があるのだが、「少女小説の血」はその後の久美作品にも形をさまざまに変えながら流れているように思える。

 本短編集はその少女小説的世界を裏側から見たものともいえよう。なぜならば少女小説とは、決して「孕む」ことのない娘たちの物語なのだから(昨今ではそれもボーイズ・ラブに押されて絶滅してしまったかもしれませんが)。

 なかでも「王子と乞食♯273」はまさにそんなお話だ。

 とはいえ、「異形コレクション」で読んだときも思ったのだけれど、やっぱり巻末の「魔王さまのこどもになってあげる」が凄い。

 全知全能の「彼」の庭のなかで、「彼」の力の前にまったく無力な魔王はそれでも自分のこどもを探しつづける。「彼」と魔王の対話の合間にインサートされる女性たちの凄惨な物語。

 そしてついにたったひとつの条件と引き換えにかれのこどもになるものがあらわれる。「できたら、こんどは……」。SFともホラーともファンタジーともつかぬ超絶技巧的短編である。