読了。

 おもしろかった。さすがは鬼才神林長平というべきか、テレビアニメーションのノヴェライズであるにもかかわらず原作の設定を完全に無視し、エジプト神話をもとに独自の世界をつくりあげている。

 僕にはよくわからないけれど、エジプト神話ファンが見るとニヤリとできるところが随所にあるらしい。

 物語は同じ人生を何百回も生きている村瀬明(そう、主人公からして原作とは別人なのである)が潜水艦のなかで何百回目かの死を迎えるところからはじまる。

 同じ時間を何回も繰り返すというアイディアはケン・グリムウッドの「リプレイ」や、西澤保彦の「七回死んだ男」、そして映画「もう一度デジャ・ヴ」などで使用されているもので、さほどめずらしくはないが、明にとって永遠の生は祝福ではなく煉獄であるにすぎない。

 何度繰り返しても終わることのないゲームにかれはすっかり苛立っているのだ。明はあらゆる方法を使ってこの「時間リフ」からの脱出を試みるが、これまでは成功しなかった。

 しかし今回、平行世界での自分とのコンタクトに成功してことによって、脱出への鍵がラーゼフォンという存在にあることを知る。

 ここにホルスだのセトだのオシリスだのエジプト神話の神々がかかわってきて、物語は現代の神話の様相を呈することになる。

 明はなにしろ何百回も生きているので、ある意味ですっかり悟りきってしまっている。かれはもう決断を悩まないし、判断を迷わない。そういう段階はとっくのむかしに通り過ぎてしまったのだ。

 したがって、物語はかぎりなくスピーディに進行する。これが読んでいて気持ちいい。最近の長い小説にうんざりしている向きにはお奨めの作品だといえるだろう。

 とりあえず僕は十分に堪能し、満足した。「ラーゼフォン」である必然性はちっともないんだけどね。

 それにしても、結局、最初に明が見た青空ってなんだったんだろう?