あらしのよるに ちいさな絵童話 りとる

あらしのよるに ちいさな絵童話 りとる

 木村裕一というひとによる子供向けの絵本である。

 僕も普段は絵本など読まないのだが、ネットで話題にされているのを見かけておもしろそうだったので読んでみた。

 物語はあるあらしの夜、一匹のヤギが雷と雨を避けて一軒の小屋に逃げ込んでくるところから始まる。

 ホッとしてそこで雨宿りしていると、戸を開けてヤギの天敵、オオカミがあらわれる。ところが自分の足も見えない暗闇のなか、ヤギは相手を自分と同じヤギだと思いこみ、またオオカミもまた相手を同じオオカミだと思いこんで仲良く話をはじめるのである。

 このなにげない会話は実に息をもつかせぬサスペンスで満ちている。もしなにかのきっかけでヤギの正体がオオカミにばれたら、その瞬間、血で血を洗う惨劇が展開されることはまちがいないのだ。

 凡庸な作家ならこの話をヤギの視点で描き、オオカミを残忍な悪役として描き出したことだろう。だが作者はあくまで神の視点で冷徹に物語を描きぬく。

 ヤギの目から見ればオオカミは邪悪な捕殺者かもしれない。だが、オオカミもまたなにかを食べなければ生きてはいけないのである。

 そしておたがいの正体を知ることができない暗闇のなかで、いつしかほんものの友情と信頼が芽生えてゆく。

 しかし、この不思議な構図はどこかで見た憶えがないか。そう、オオカミを警察に追われる指名手配犯に、ヤギを盲目の女性に移し変えれば、これは乙一の「暗いところで待ちあわせ」そのものである。

 この本はいわば子供向けの「暗いところで待ち合わせ」なのである。とはいえ、ただそれだけならばようするになかなか気の利いた絵本というにすぎなかっただろう。

 ところが、この絵本は1冊では終わらない。これは全6巻のシリーズの開幕にすぎないのである。本来は1冊で終わる予定だったのだが、人気が出たので続編が書かれたということらしい。

 そして物語はここからとてつもない方向へと転がって行く。これが凄い。ほんとうに凄い。どう凄いのか。それはいまはとても言えないので、いずれ書かれる書評を待つか、自分で探して読むかしてください。