贈る物語 MYSTERY

贈る物語 MYSTERY

 読了。

 大変素晴らしいアンソロジーでございました。

 「贈る物語」と題された3冊のアンソロジーのなかの1冊で、古今東西の傑作ミステリを集めた本です。まず収録作を挙げてみましょう。

エラリー・クイーン「暗黒の館の冒険」

山田風太郎「黄色い下宿人」

ロナルド・A・ノックス「密室の行者」

ジョン・ディクスン・カー「妖魔の森の家」

エドワード・D・ホック「長方形の部屋」

法月綸太郎カニバリズム小論」

泡坂妻夫「病人に刃物」

連城三紀彦「過去からの声」

鮎川哲也「達也が笑う」

 見るひとが見ればわかるでしょうが、すべて有名かつ高名な作品で、いわゆる「知られざる傑作」のようなものはひとつもありません。

 なかでもカーの「妖魔の森の家」と、鮎川哲也の「達也が笑う」は、密室殺人と犯人当てというサブジャンルにおいて、最も有名な短編のひとつといっても過言ではないでしょう。

 また天才山田風太郎によるシャーロック・ホームズもののパスティーシュ「黄色い下宿人」も斯界に名高い作品ですし、泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズから一作採られているのも贅沢です。

 法月綸太郎の諸作のなかから、よりにもよって「カニバリズム小論」を選ぶあたりのセンスも独特のものがあります。

 王道のセレクトであるだけにミステリマニアは物足りないかもしれませんが、はずれはありません。どれも凄い。

 それにもかかわらず、僕はいままで(クイーンと法月のものを除いて)これらの作品をまったく読んでいなかったので、今回大いに楽しんで読むことができました。

 なるほど、これが「妖魔の森の家」か! これは凄い。

 物語はすべて本格の論理のなかに回収されるにもかかわらず、その隙間から一瞬たしかにこの世ならぬ異次元――「向こう側の世界」からの声が聞こえる。

 密室のトリックもおもしろいんだけれど、それよりもむしろ謎の答えがあきらかになったあとの戦慄にこそ本領がありますね。噂に聞く「火刑法廷」もこんな趣向なのかな。

 一方、日本の雄、鮎川哲也による「達也が笑う」も凄かった。きわめて意地の悪い趣向が凝らされた犯人当てのお手本のような短編。

 高木彬光の「妖婦の宿」(これも傑作)と同じく日本推理作家協会の会合における犯人当て企画のために書かれた作品だというが、とにかく色々なアイディアが惜しげもなく放りこまれている。

 ひとを騙すためだけにここまでするか。

 犯人を当てることそのものは可能でも、複雑に張り巡らされた趣向のすべてを見抜くことはむずかしいでしょう。いいかげん鮎川哲也の長編を読まないとな。

 全体に、いかにも綾辻さんの選んだ作品らしく、収録作のほとんどが「最後の一撃」的なサプライズを重視した小説でした。

 エドガー・アラン・ポー以降、百数十年の歴史のなかで磨き上げられてきた「騙り」の技巧、その極地を示す名作揃いです。

 ミステリ入門にはとても良いアンソロジーだと思うので、これからこのジャンルに足を踏み入れようと思う向きは手に取ってみてはいかがでしょうか。