名探偵が多すぎる (講談社文庫 に 1-5)

名探偵が多すぎる (講談社文庫 に 1-5)

 読了。

 西村京太郎がエラリー・クイーン、エルキュール・ポワロ、メグレ、明智小五郎の4人の名探偵を主人公に配して描く「名探偵シリーズ」の第2弾。

 前回、3億円事件を模した怪事件を見事に解決へと導いた名探偵たちを今回待ちうけているのは、犯罪界の英雄、「怪盗紳士」アルセーヌ・ルパン。

 名探偵たちが乗った船のなかで不可解な密室殺人事件が起き、その場にルパンの筆跡の挑戦状が残されていたのだ。「名探偵諸君、この謎が解けるかね? アルセーヌ・ルパン」。

 まさか、決してひとを殺さないはずの「怪盗紳士」が殺人を犯したのか? おまけにこの神出鬼没の大犯罪には怪人二十面相が協力しているらしい。

 しかし4人の名探偵たちはこの密室の謎を解こうともせず、一見関係ないことばかりを調べている。かれらがいうには、この密室は「解けるはずがない密室」だということだった――。

 粗筋を記しただけでわくわくと胸が高鳴る小説はそうあるものではないが、これはそのなかのひとつだ。

 発表は20年以上前なんだけれど、感覚的には綾辻以降の新本格ミステリとほとんど遜色ない。たとえば、この小説の章タイトルはすべて過去のミステリの名作から採られている(「挑戦準備完了」だけ元ネタがわからなかった。だれかわかる方がいたら教えてください)。

「ポケットに探偵を」→「ポケットにライ麦を」

「災厄の船」→「災厄の町」

「何故メグレに頼んだか」→「何故、エヴァンスに頼まなかったのか?」

「特等2A室の秘密」→「ローマ帽子の秘密」ほか国名シリーズ

「事務長殺し」→「アクロイド殺し

「そして誰かがミスをした」→「そして誰もいなくなった

「ルパン罠を張る」→「メグレ罠を張る

「Lの悲劇」→「Xの悲劇」ほか悲劇四部作

 どうだろう。いかにも綾辻行人法月綸太郎麻耶雄嵩のような作家がやりそうな遊びではないか。しかしこれは西村京太郎の作品なのだ。

 天才的だが高慢な名探偵たちが「足で稼ぐ」タイプの刑事を笑い飛ばすところなど、初期の御手洗ものみたいである。

 読者としては、この時代にこの作家によってこのような小説が書かれていたことを、ただただ驚くばかりだ。

 西村京太郎のことを、「たくさんのトラベルミステリーを書いているひと」と認識している読者も多いと思う。

 しかし、このマニアックな上にもマニアックな小説から読み取れるものは、本格ミステリに対する愛情と情熱、そして少々の揶揄である。

 赤川次郎や山村美沙もそうだけれど、何千万部という本を売るベストセラー作家たちは、総じてその一方で筋金入りのミステリファンをも唸らせるような本格の傑作をも残しているものなのだ。

 中身を読みもせずに大衆的な作家の作品だからと莫迦にしてかかるような真似がいかに馬鹿げているかということは、この一事だけを採ってみてもわかるだろう。

 物語の終盤、4人の名探偵たちは二十面相の手によって「完全な密室」に閉じ込められてしまう。

 これまでかれらが解き明かしてきたような、隠された出入り口がある密室ではない。四方をコンクリートで固められ、文字通り蟻の這い出る隙間もないという、ある意味で究極の密室である。

 かれらがいかにしてこの密室を脱出するか、読者は想像を巡らしながら読むと楽しいと思う。