ミシン

ミシン

 読了。

 この世界にはあたらしい物語の形というものは存在しないのかもしれない。古代ギリシャの昔から、人間は似たり寄ったりのお話を繰り返し繰り返し描いてきたのだ。

 その意味で、嶽本野ばらの小説も決してあたらしいものではない。清冽なブルーの表紙が目を惹くこの「ミシン」という本に収められたデビュー作「世界の終わりという名の雑貨店」は、この日本だけに限っても、いままでに何百回となく描かれてきたであろう、若い恋人たちの逃避行の物語だ。

 「世界の終わり」という名の雑貨店をなかば趣味のように営む主人公は、ある時、Vivienne Westwoodの服で身をかためた少女と出会う。

 かれは彼女と恋に落ち、彼女といっしょに世界のすべてからの逃避を企てる。ありふれたプロット。しかし、強烈な思想性に裏打ちされた美学が典型的な物語を鮮烈なものへと仕立て上げる。

 嶽本野ばらの世界を形作っているのは「乙女」という名の思想だ。現実を否定し、空想を肯定し、世界を否定し、反世界を肯定する、極端に危険で鋭い思想。嶽本野ばらの世界に妥協はない。安定もない。

 かれ(男性なのだ。その精神は乙女であっても)が紡ぎ出す物語ははてしなく続く世界との闘争の神話である。

 端正な文体と登場人物たちが持つ世界との微妙な距離感はどこか乙一の小説に近い印象を受ける。しかし、嶽本野ばらのスタンスは乙一よりはるかに攻撃的である。

 表題作「ミシン」は凄まじいインパクトを持った傑作。傑作だが、これがとにかくめちゃくちゃな小説で、あらすじを解説するとおもしろさが薄れてしまうような気がするのでこれについては黙っていることにする。

 衝撃のラストを刮目して見よ!