この、くそったれな世界に、精一杯の愛を込めて。――『キラ☆キラ』。

「知ってる? 猫って、異常に我慢強くてね、大けがしても、平気な顔で座ってたりするんだよ。だから、外で飼ってると気がつかないことが多くて。もっと痛そうな顔すれば、助けてあげられるのにねっ」

 クリア。非常におもしろかった。結果としてシナリオライター瀬戸口廉也最後の作品になってしまったわけだけれど、この一作でかれの名前は多くの読者に記憶されることになったと思う。本当に惜しいひとを去らせてしまった。

 あらためて説明するまでもないかもしれないが、『キラ☆キラ』は高校生バンドもの。とあるキリスト教系の学校に通う前島鹿之助は、あるとき、ほんの偶然から見たロックバンドに魅せられ、自分でもバンドを作ることになる。

 半ば勢いと雰囲気で作ってそのバンドは、その名も「第二文芸部バンド」。メンバーは鹿之助以外全員女の子。そして成り行きから鹿之助も女装して演奏する羽目になる。有名インディーズバンドの一員である同級生の助言を受けた鹿之助たちはめちゃくちゃな特訓をくり返しながら、パンクロックの精神をみがいていくのだった。

 第一章はそんな第二文芸部が学園祭で喝采を浴びるまで。そして第二章では受験勉強を放り出したかれらが、名古屋、大阪と旅する様子が綴られている。どうにか動くおんぼろワゴンに乗りこみ、全国各地のライブハウスを訪ねてまわる展開は、まさにロードムービーそのもの。

 その場その場で大うけを取ったり、その反対に大失敗したり、けんかしたり、女性に誘惑されたりと、その展開には青春のあらゆるエッセンスが詰まっている(もちろん、そのあいだずっと鹿之助は女装)。

 あらすじだけを見ていると破天荒にも見えるが、その実、案外堅実なところも多く、決して「現実」から離陸しきらない。特に楽器やライブハウスの詳細な描写は、この作品ならではのものだろう。こういう作品をあっさりと呑み込んでしまうエロゲ業界の奥深さにいまさらながらにおどろかされる。

 そうやって貧乏ながらも楽しく時間が進む第二章までは本当に楽しい。何しろ長いのでシナリオによってはちょっと冗長になる気配はあるが、許容範囲内だと思う。しかし、物語は第二章では終わらない。この作品の本領発揮は、それぞれのヒロインの個別シナリオに入る第三章にある。

 この章では、しんどいながらも楽しかった旅が終わり、各人にそれぞれの「現実」が襲いかかってくる。資産家の令嬢樫原紗理奈には、亡くなった両親を巡る問題が、鹿之助の幼なじみ石動千絵には両親の離婚問題が降りかかってくるのである。

 その奇妙にリアルな質感は、演奏旅行の破天荒さと対照的。しかし、彼女たちのシナリオはエロゲの定石からそう大きく外れるものではない。たしかによく出来ているんだけれど、キュートな青春ラブストーリーという範疇から出るものではないだろう。

 特筆するべきは第二文芸部のヴォーカリスト、椎名きらりのシナリオ。このシナリオでは、それまでのコミカルな物語を帳消しにするような、衝撃的な展開が待ち受けている。パンクでもロックでもどうしようもない重たい現実が、鹿之助たちの上に降りかかってくるのである。

 ある意味では、いかにも瀬戸口廉也らしい暗い展開だといえる。このひとはこういう知的で内省的なシナリオを書くと本当に巧い。ライトなコメディも達者なものだけれど、やはり本領はダークな心理描写にある。

 きらりのシナリオは終盤で二通りに分かれる。あえて名づけるなら、片方がバッドでもう片方がグッドだろう。しかし、どちらも綺麗事のエンディングからは程遠い。一方のルートでは鹿之助は大切なものを失い、もう一方のルートでは罪を背負うことになるのである。

 「バッド」ルートでかれが最後に呟く言葉、「この、くそったれな世界に、精一杯の愛をこめて」、ここには瀬戸口廉也がシナリオを務めた三つの作品を貫くテーマがある。そう、『CARNIVAL』も『SWAN SONG』もそうだった。このひとの物語は、どれほど暗く陰惨であっても、このどうしようもなく腐りきった世界を肯定しようとしているのである。

 狂おしいような絶望を乗りこえ、鹿之助がささやくこの言葉は本当に美しい。このくそったれなれな世界を、それでもなお、愛しているということ。これこそ瀬戸口廉也なりの人間賛歌である。

 どうしようもない現実を、どうしようもないと認識しながら、それでもなお、抵抗してみせること。そこには、血まみれの「愛」があるのである。文句なしの傑作! いまなら続編『カーテンコール』とセットになったものが+1000円で買えるので、万難を排してプレイするべし。